女性外科医からのメッセージ

堀田 千恵子Chieko HOTTA
出身:佐賀県
2013年 佐賀大学医学部 卒業
2015年 入局
2024年現在医師として12年目で、2人の子供の子育てと仕事を両立しながら、さらに社会人大学生として学位取得を目指して頑張っています。
【外科医への想い】
消化器外科に入局したのは、手術が楽しかったということが学生実習や初期研修を通して変わらず印象として残り、「本当に自分が心から好きだと思えることを仕事にしたい!」と思ったからです。手術が楽しいと思ったのは、手を動かす手技自体も魅力的であることはもちろんですが、なによりも手術中のスタッフの雰囲気やチームワークの良さがとても心に残ったこともあります。今では、手術でしか治療ができない命を救うことにつながるこの外科治療のすばらしさを実感していますし、多くの患者さんからも感謝の言葉をいただき、より一層、外科医になってよかったなと感じる日々を過ごしています。
私が入局した頃はまだまだ女性外科医が少ない時代でしたので、「女性なのに大丈夫ですか?大変かもしれませんよ?」と、周囲の先生方から心配されたこともありました。実際、結婚や出産、子育てもしたいという気持ちもあり、不安があったのは事実ですが、自分のやりたいことをやりたいという信念が優り、外科医の道を選択し、今現在もその信念は持ち続けた結果、欲張りかもしれませんが、子育て・手術・学位取得のすべてを並行して、他の先輩先生方と同じように外科医として頑張っています。
【私のこれまでと現在】
私は、医師5年目で結婚し、外科専門医を取得してから、医師7年目で1人目を出産しました。以前から大学院への進学も計画していましたが、小さい子供がいることで当直のアルバイト収入は見込めず、経済的理由や日常診療も続けたい気持ちもありましたので、産後半年で職場への復帰と同時に社会人大学院生になりました。また、博士号取得のために臨床研究を行うことは時間がかかると予想されたため、6年かけての卒業を目指しています。
医師10年目で2人目を出産、産後9か月で復帰、育休中に消化器外科学会の専門医を取得しました。現在は、親の協力を得ながらフルタイムで働いています。子育ても少しは慣れてきて時間の割り振りができるようになってきましたので、当直やオンコール、セカンドコールも可能な日は入れてもらうようにしています。現在勤務している病院では、手術は胃癌や大腸癌の手術、良性疾患手術、外来は術後の経過観察だけでなく、化学療法、終末期医療も幅広く携わり、日々勉強することばかりで仕事としても充実しています。
毎日の生活は、朝起きて、子供を保育園と幼稚園に送り出して出勤します。子供のお迎えや夕食は親のサポートもいただいていますが、帰宅したらお風呂に入れて、遊んで、寝かしつけで1日が終わります。休みの日は、夫婦ともに家事もやりますが、普段あまり子供と遊べませんのでできるだけ一緒に過ごす時間を確保するようにしています。
外科医として勤務していれば、緊急手術や患者さんの急変等で帰宅が遅くなることもあるため、その場合は家族に頼って対応できるよう努めています。職場においても、妊娠中は急に具合が悪くなれば手術助手を途中で交代していただくこともありましたし、出産後も当直やオンコール等の回数にも配慮していただきました。また、子供の急な発熱や病気等で急遽お休みをいただき、ご迷惑をかけてしまうことも多々ありますが、それでも深いご理解とサポートをいただいているため大変感謝しています。それ以外にも、同僚の先生方には人生の先輩として普段の子育てについても気軽に相談にのってもらうなど、さまざまな面で助けていただいています。
【妊娠中の仕事について】
外科医は多忙、手術中はずっと立ったまま、当直やオンコールもあり、妊娠中は大丈夫なのかと思われる学生・研修医の方もいると思います。私自身の経験から、個人的な意見や感想を参考までにお伝えします。
妊娠初期:おなかは大きくないけど、立ち眩みが多く、手術中も気分不良で、ほかの先生に交代していただくこともあった。つわりはひどくなく食事はとれていたので、やせることなく過ごした。放射線を使用する手術や手技は行わないよう周囲にサポートいただいた。
妊娠中期:安定期に入って気分不良に陥ることは減った。手術も普通通りに行えるようになった。
妊娠後期:足が浮腫み、つることが増え、おなかも張るので、長時間たっておくと横になって休む時間が必要になった。時々、外来のベッドで休ませてもらうこともあった。帰宅前には車の中で少し休んでから帰宅するようになった。
1人目の時は、当直は妊娠が発覚してからは免除していただいていました。2人目の時は、1人目を産んでからオンコール当直は免除のままでした。人によっては妊活中からお休みする方、当直やオンコールを免除してもらう方もいます。それぞれの体力や妊娠経過に応じて違うと思いますので、おなかの子を第一に無理しないのが大切です。周りには医療従事者がたくさんいますので、安心して妊娠期間を過ごせました。
【外科医を目指す女性の方へ】
全国の女性外科医の中には、真似しようにもまねできないほどすごい先生もいらっしゃいますが、みんながみんなそのような外科医を目指す必要はないと思っています。自身の置かれた環境は人それぞれ違います。家族構成、働く病院、住んでいる場所でも協力体制や使えるサービスも変わってきます。その中で「自分がやりたいことをやり続けながら成長できるよう、あきらめて自分の人生に悔いが残らないように」、手助けができればと思います。
これからの時代は、ワークライフバランスは女性に特化した問題ではありません。男性も女性もともに仕事も子育ても両立していかないといけない時代だと思います。それぞれが違った環境、目指すものは違いますので、みんながみんな同じように働く時代ではなく、それぞれが特性を生かしつつ、輝けるようにサポートできればと考えています。たくさんの方が外科医として無理なく働けることを願っています。
外科に興味がある方で、悩んでいる方はぜひ当教室にご相談ください。子育てや女性特有の問題で悩んだときに心強い存在になってくれる先輩方もおられます。ぜひ一人でも多くの外科医が増えてくれ、一緒に楽しい医局を作っていければと思っています。