グループ紹介
上部消化管グループ
対象疾患
基本的にすべての食道・胃疾患を対象としています。
食道癌、胃癌、食道良性疾患(粘膜下腫瘍、腐食性食道炎、食道穿孔など)、胃良性疾患(粘膜下腫瘍)、十二指腸腫瘍(特に球部)、食道裂孔ヘルニア、胃・十二指腸穿孔など。
手術症例数
※横にスクロールして、確認できます。
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | |
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食道癌 | 31(17) | 29(26) | 20(16) | 18(18) | 25(24) |
胃癌 | 63(17) | 89(8) | 80(13) | 59(19) | 65(17) |
幽門側胃切除術 | 31 | 43 | 43 | 33 | 28 |
胃全摘術 | 13 | 20 | 16 | 11 | 13 |
噴門側胃切除術 | 10 | 8 | 5 | 7 | 7 |
膵頭十二指腸切除 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 |
その他 | 8 | 18 | 14 | 8 | 16 |
※()はロット支援手術
上部消化管グループの概要、特色
当院は食道外科専門医認定施設、および日本胃癌学会認定施設(認定資格A)であり、食道外科専門医、食道認定医、内視鏡外科技術認定医が在籍しています。上部消化管グループは主に食道・胃に発生する疾患を対象に診断、治療を行っており、悪性腫瘍に対する内視鏡外科手術(胸腔鏡下手術、腹腔鏡下手術、ロボット手術)も早期より導入しました。特に治療成績の向上を目指し、ロボット支援手術を全国に先駆けて(国立大学ではもっとも早い)導入し、当科の治療成績がロボット支援手術が保険診療となる一助となっています。能城浩和教授はロボット外科専門医国際A級を取得されています(国内で3人のみ)。
さらに近年、国産のロボットを使用したロボット支援手術(hinotori手術)も導入し運用を開始しています(図1)。選択肢が増えることで、より患者様に合わせた治療選択を行うことができるようになりました。このような様々な技術を活かした、繊細で過不足のない郭清、消化管再建を行うことで、治療成績向上を第一の目標として目指し、加えて、患者様の満足度の高い、機能温存や合併症の低下にも繋がるよう努めております。
【図1】手術支援ロボット hinotoriとda Vinci Xi
上部消化管グループの疾患
食道癌
食道は咽頭と胃の間をつなぐ管状の臓器です。食道癌は初期には自覚症状がないことが多く、進行するにつれて、飲食時のつかえ感、胸や背中の痛み、嗄声(声のかすれ)などの症状がでます。
食道癌の診断には、まずは内視鏡検査で粘膜の状態を確認し、異常な部分の組織を採取して病理検査(顕微鏡によるがん細胞の有無の評価)を行います。また、癌の隣接する臓器への浸潤の状態・リンパ節転移・遠隔転移(肝転移・肺転移・骨転移など)を評価するため、CTやPET、場合によりMRIや気管支鏡検査が行われ、総合して病期(ステージ)を診断し、その病期に応じた治療方針が検討されます。
食道癌の治療には、内視鏡的治療、手術、放射線治療、化学療法があります。癌の進行度と患者さんの全身状態を正確に評価し、それぞれの治療の特徴を生かしながら、最適と思われる治療法を選択しています。
2010年9月より当科では、胸腔鏡、腹腔鏡を用いた食道癌手術を導入し、患者さんの体に対する負担軽減を図っております。食道癌手術は、頚部・胸部・腹部に渡る手術となり、侵襲が非常に高い手術となりますが、内視鏡外科手術により、小さな創で、患者さんの体に負担が少ない手術を行うことができます。
一方、癌が粘膜層に留まるような早期食道癌に対しては、消化器内科と連携して低侵襲かつ機能温存がえられる、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行っております。また放射線化学療法については、放射線科と連携して治療を行っております。特にStageIの食道表在癌の患者さんには、JCOG0502の臨床試験の結果をふまえて、外科的治療と放射線化学療法の両方のメリット、デメリットを十分にお話しして治療を選択いただいています。手術の際は、高度リンパ節転移を認めるStageII, IIIの進行食道癌に対しては、術前化学療法(あるいは化学放射線療法)を行ったあと手術を行っています(JCOG9907、JCOG1109)。また、食道癌に対して根治目的に化学放射線療法がおこなわれることがありますが、癌の再発や遺残例に対しては積極的にサルベージ手術(救済手術)を行います(JCOG0909)。このようにエビデンスに基づいた治療を基本とし、それに加え免疫チェックポイント阻害剤などの新しい治療を積極的に取り入れ、患者さんのそれぞれの全身状態や癌の進行度に応じて最良の治療を選択するよう心がけております。
・ロボット手術
当科では標準的に胸腔内操作はロボット、腹腔内操作は腹腔鏡を用いた低侵襲な手術を行います。まずは全身麻酔をかけた状態で腹臥位となり、右胸部から5本のトロッカーという筒を挿入します。トロッカーから挿入した微細な構造を認識できる、高性能なカメラを見ながら、様々な器具を用いて手術を行います。胸腔操作においては、食道の切除と周囲のリンパ節を切除します。次に仰臥位となり、腹腔鏡操作を開始します。食道を摘出し、食道の代わりの再建臓器となる胃管を作成します。胃管の配置は胸骨の前か後、または後縦郭とありますが、当院では基本的に生理的な食道の位置である後縦郭での再建を行っております。
・ロボット手術の詳細
胸腔内での操作は、微細構造の認識が容易で、繊細な手術が行えるロボット手術を行います。多くはdaVinciによる手術ですが、当院では世界に先駆けて国産ロボットであるhinotoriを使用したロボット手術を行っております(図2, 3)。
【図2】右側胸部にトロッカーを挿入
【図3】手術中の様子(hinotori使用例)
胃癌
胃は袋状の器官で、鳩尾の裏あたりに位置しています。胃癌は、早期では自覚症状がほとんどなく、進行しても症状がない場合もあります。症状としては、心窩部痛、違和感、胸やけ、吐き気、食欲低下などで、癌から出血することで貧血や黒色便を生じることもあります。
胃癌も食道癌と同様に、まずは内視鏡検査で状態を確認し、異常な部分の組織を採取して病理検査(顕微鏡によるがん細胞の有無の評価)を行います。また、癌の隣接する臓器への浸潤の状態・リンパ節転移・遠隔転移(肝転移・肺転移・骨転移など)を評価するため、CTやPETが行われ、総合して病期(ステージ)を診断し、その病期に応じた治療方針が検討されます。
内視鏡的治療、手術、化学療法があります。それぞれの病期で推奨される治療法がガイドラインで定められています。当科の特徴は、腹腔鏡下手術の適応範囲が広く、ほぼ全例を腹腔鏡下手術で行っていることがあげられます。現在、日本胃癌学会が出している胃癌治療ガイドライン上においても、早期癌に対する腹腔鏡下手術は標準治療となり、進行がんに対しても幽門側胃切除に対しては標準治療の適応となっています(JLSSG0901)。当科では腹腔鏡下手術の利点である低侵襲性だけでなく、拡大視効果に基づく微細解剖の認識により、従来の開腹手術を凌駕する質の高いリンパ節郭清を行い、癌の根治性を十分に担保した低侵襲手術を提供しております。また、根治性のみならず、術後の生活の質(QOL)も重視し、胃の温存と再建方法の工夫(噴門側胃切除術における観音開き法再建など)を積極的に行っています。
深達度が粘膜層に限局する早期癌では、内視鏡的治療である内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜剥離術(ESD)を消化器内科と緊密に連携して行っております。一方で、内視鏡治療の適応外となる早期癌や進行胃癌に対しては積極的に腹腔鏡下手術を行っています。大型の3型腫瘍、4型腫瘍や高度リンパ節転移を有する胃癌に対しては、根治性や予後の向上を期待し術前化学療法を行った後に手術を施行しています。また、高度食道浸潤のある胃癌の患者さんや食道胃接合部癌の患者さんに対しては、腹臥位での胸腔鏡下手術の操作を加えることで、良好な視野のもと十分なリンパ節郭清と安全な消化管吻合を行っております。さらに、上記の術式はいずれも完全鏡視下で行っております。そうすることで、切離・吻合を腹腔内で行い、小開腹創が不要となるため、さらに低侵襲性が向上します。
・ロボット手術(da Vinci, hinotori)
当科では腹腔鏡同様、ロボットによる低侵襲治療も標準的に行っております。手術は5本のトロッカー筒を腹腔内に挿入し行います。臍部のトロッカーからカメラを挿入し、その他のトロッカーから様々な器具で胃とその周囲のリンパ節を切除、摘出し、消化管の吻合を行います。多関節機構、HD&3D image(拡大視効果)、Filtering機能といったロボットの特性を活かすことで、難易度の高い郭清や再建(吻合)も安定して行うことが可能です。
【図4】ロボット支援胃切除(hinotori使用例)
今後は食道癌同様、daVinciロボットのみでなく、国産のロボットであるhinotoriも使用しており、最先端の治療を行うことで、日本の先進医療を先導していきます。
最後に
胸腔鏡下手術・腹腔鏡下手術・ロボット支援手術による低侵襲で精緻な手術と、積極的に化学療法や放射線療法などを取り入れ、機能温存を図り、患者様各々に対して、安全で根治性の高い、最善・最適な治療を提供できるよう努めています。